マイナス26度のスキー/河北省张家口崇礼Thaiwoo Ski Resort

昔、前の旦那と遼寧省の瀋陽に住んでいた時は、マイナス40℃くらいになるのが普通で、でも現地人は慣れてるので、そんな天気で外に出たりしなかったんですが、無邪気で中国の事を何も知らない外人と一緒にいると、マイナス30℃という寒波の恐ろしさをすっかり忘れてしまって、どんだけ寒いか想像もつかなくなってしまっていたのです。

夫の仕事の一環として、スキー場の下見に行く、という話がありました。北京の旅行会社が同行し、宿泊先やスキーコースなどを実際に見て試すということで、私はオマケで連れて行ってもらいました。

朝8:10発の北京市内発シャトルバスに乗る、と6時過ぎに家を出て、スキーを担ぎながらウチの最寄りのバス停でバスを待ちます。朝早いから空いてるかと思いきや、満員。車掌さんの脇しか空いてません。

降りるジジイ達が容赦なく私のズボンを踏んで行きます。踏んですみませんとかは無いです。ズボンが長くて地面を擦っていた訳でもなく、あまりの混み様に、足を高く上げてまたがないと出れない。小汚いジジイ達の泥付きのブーツが、私のズボンに当たって、上から下に踏まれます。カバンは引っ張られて、頭は小突かれて、散々。もーほんとに。

挙げ句の果てに、邪魔だから奥に行け、と言われ、スキーを引き摺りながらバス後方に移動しました。聞き取れないディーはひとり取り残され、こっちを子犬のような目で見ています。

めんどくさい。お金払いたくない自分がわりーんだ。最初からタクシーに乗ればいいのに…と、彼のせいにしたい私は放置しました。

しばらくして、切符売りのおじさんが、満車の中で、突然奇声をあげます。「この外人、デカイ図体でデカイカバン持って真ん中突っ立ってて邪魔だから、誰か席譲ってやってくれ、座らせないと面倒だ!言葉もわかんないし!」ボランティアの女性が立ち上がり、ディーに席を譲ります。ディーは笑顔で『オーノー!アイムオーケーセンキュー』なんて言ってます。うぜー、なんてブリティッシュなんだ!スマイルかましてんじゃねーよ!黙って座りゃいいんだよ。と遠くから見ていましたが、結局無理矢理座らせられて、私はいずれにせよ憤慨。

私も外人なのに…顔がアジアなだけで…と心の中で怒り…気分は最低。

渋滞の中、地下鉄の駅にやっと到着し、乗り換えて、待ち合わせ場所に向かいます。彼女はもう着いていて、なんとラーメン屋にいるとのことです。

朝7:30、ラーメン屋、におうな。 ぜってー中国人だ。

当たりました。 生粋の中国人がお粥を啜って待っていました。英語の達者な彼女は、話は通じますが、他人への配慮が著しく欠けます。

そんな彼女に、コーヒーとデニッシュかなんか食べたいとラーメン屋でのたまう旦那。状況見なさいよ、どこにカフェがあるんだよ。と思いましたが、こういう時は知らんぷりに限ります。うちの奥さんもあったかいコーヒーかなんか必要だから、と言い出したので、私はマイボトルに飲み物あるから自分の分だけ買っておいで、と言ってやりました。

消えたので、どうすんのかなーと思いきや、お粥に肉まん二つをトレイにのせて、ディーが帰ってきました。

どうした?と思わず聞く私。

肉まんだけでいいって言ったのに、無理矢理お粥セットにされちゃった…と困り顔

身体にいいからお食べ、というと、中国上陸初めて、うちのイギリス人がリアル中華を食べました。不気味な光景、しゃぶしゃぶのお粥を睨みながらすするハゲ。

『ちゃんちゃん(私のあだ名)トイレがうんこ禁止だって!面白いから見て!』

いいね!うんこ禁止のトイレって聞いたことねー。

ディーはこれがえらい気に入って、no shitをこの日連発するのでした。

さて、無事にシャトルバスに乗れた私達は、4時間かけて北京から河北省の太舞というスキー場に辿り着きました。その時点でマイナス23℃の極寒なのに、バスから降りたばかりで手袋はバッグの中、メガネは一瞬で凍りました。

ガイドとして派遣されてるこの会社員のねーちゃんは、上下スキーウェアに、スノーブーツと万全の状態で、これから1キロ歩いて宿舎に行きます、としれっと言います。

お前待て今なんつった?1キロ?歩かないよ私達は。バス手配してこいよ!とキレ気味で言った私達に、じゃあ先にスキー場行きますか、とプラン変更。

スキー場も徒歩5-6分の距離で、うちのイギリス人とその中国人は、私を置いてスタスタと先に進みます。

さみーんです。顔の出てる部分が電気ショックみたいにピリピリして、手は凍傷になりそうだし、メガネ曇って何も見えないし、でも中国人は、そんなの気にしない。自分は着込んでるから、他人が寒かろうが悶えていようが、自分の仕事するだけ。

命からがらスキー場のロビーに着いた私達は、使われなくなって錆びれた体育館みたいな倉庫に送り込まれ、荷物はここに置けと指示されます。

マイナス23℃、素手だと何も感じられない寒さです。スキーカバーのジッパーも開けられない。

倉庫の番人のおじさんが横で待っています。中国は横で待つことが超多い。今履いてるからね、そっちで待ってればいいのに。そんな真横で立ってられたらやりにくいんだよ。

ブーツに足を入れると、前代未聞の硬さに危機感を感じます。全く開かない。

これ、入んねーんじゃねーか?

爪先を入れたまま、ねじ込めなくて足首が変な形に曲がっています。奥ではうちのおじさんも悶絶してる。

『ちゃんちゃん?履ける?ボク履けそうにない、fucking hell!』履けない私達は、中国人のおじさんに連れられて、倉庫内の不気味なテントに入ります。保温シートで作った掘っ建て小屋ですね。

二箇所ヒーターがあって、ブーツを炙るおじさん達

炙って五分、おじさんの肩を借り、捻じ込みますが足首が変形しました。無理。

おじさんは私達を連れて、ロビー内のレンタルカウンターに行きます。

カウンターのお兄さんは、ドライヤーを手に、ブーツを溶かしはじめました。まさに、溶かすです。寒すぎてブーツ凍った。

ドライヤーの首が曲がってプラスチックが溶けて、ブーツ内に垂れるまで温めて頂き、お兄さんの肩を借りてブーツに足を入れます。

入んねーよ、硬いよ、固すぎ、痛い痛い痛い痛い、ぎゃー!

と叫びながら足を踏みこんだ拍子に、ブーツが滑ってマンガの様に転びました。

お兄さんの上に活きたマグロの様に飛び乗る私。中国人達も失笑。ディー大爆笑。クソ野郎達め…

無事にブーツは履けましたが、外はマイナス26度、山頂はマイナス30度近くまで冷え込んでいました。ゴンドラに乗りながら朦朧としはじめる、なんだか眠いかもしれない、危険だ、これは命に関わる…

一度だけ滑り、こんな温度でスキーなんてキチガイだ!と、誰にぶつければいいのか分からない怒りを胸にロビーに戻ります。

Thaiwooスキー場は2018年12月にFISのスキー競技会をホストする会場で、スキー場自体の作りはグローバルスタンダードで、ゴンドラや四人乗りリフト、斜面は中級から中上級もあり、カナダのウィスラーをイメージさせるウェスタンの建築で統一され、一見素晴らしい。

しかし、いる人間は中国人。英語を話す人間は一人やっと見つかる程度。全てのコミュニケーションは中国語で、匂いも雰囲気もド中国。

例えばスキー場に犬がたくさんいる。スタバに犬がいるのと同じか?

ロビーのロッカーエリアに、ディーと同じくらいでかい犬が二匹いて、犬同士喧嘩して、ガブっと口を噛んで、噛まれたほうがキャン!というシーン見てギョッとした。

日本だったら喧嘩になる前に引くのに、噛ませるまで近づかせる?闘犬の気分か?

犬用のゲージが並んでいるのも異常。

私の頭よりでかい頭の柴犬が、そんな柴いるのかと思って、隣にいるのは知っていたが、スタバで買った私のスコーンの匂いを10cmの至近距離で嗅いでいて、その近さに飛び上がる。

スタバの横に中華屋台があって、餃子とスパイス煮卵を売っていてコーヒーの匂い台無し。

初心者用のケツパッドが亀。

1日目はほぼ何も出来ずに、移動に大半を使った私は、不愉快で寒くて、手足の指が凍傷の様に痛くて、腫れてしまって怒りがやまず。

それなのに宿がユースホステルで二段ベッド2台のバスタブなしの部屋だった。

どっちに寝る?と普通に聞いてくる旦那に、下。とボソッと言った私は、その晩ずっと無口だった。

なんで?なんなんだよ、中国クソすぎる。

その日は上海が氷点下になり降雪した、記録的に寒い日で、いる人はみんなアラスカにいるみたいな動物帽子をかぶっていた。

私のスキーウェアーは春スキー対応の薄手で、ブーツは足に合わせてカスタムメイドしたフィット感の高いもので、分厚い靴下が履けない。アラスカで生き延びる仕様ではないのです。

ブーツのシェルも手袋も、そんな寒い気候に対応できるものなのか謎です。

とにかく疲れて、腹が立って、下段ベッドで寝たけれど、上の住人がデカイ牛のサイズで、彼が寝返りをうつ度に軋んで揺れて目が覚めた。

ディーは悪くない、いや、悪いか?わからん、もう何がなんだか。

翌日、気温はマイナス18度まで上がり、私達は二回のゴンドラに成功。そのあとはゲレンデから見えるスパ施設に行って、足を解凍した。

スパ、いいんだけど、汚い。お湯が黄色くて、しっこ?と思った。何個もバスタブがあって、綺麗な湯を探して入ると、塩素の強烈な蒸気で咳き込む。スリッパが盗まれる。ガキが騒ぎまくる。中国に平穏はなし。

私にブーツを履かせてくれたおじちゃんは、えらく可愛がってくれて、スキーを運んでくれたり、掘っ建て小屋に誘ってくれたり、優しかった。みんながみんな、嫌な奴でないことは分かってる。

帰りのバス、渋滞で5時間、満員のバスの中、ゲーム、通話、聞きたくない大衆音楽、なんか臭い食べ物、のしかかる隣の女、のしかかるうちのイギリス牛、疲労困憊で、家がとても嬉しく思えた。

中国でスキーはもう行かない。

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